天狗村奇談(8) その四 サーカスの夜②

そんな母を遠くから見つめながら、ぼくの体はブルブルと震えていた。何がなんだか、わけがわからなかった。なぜ、母はここにいるのだ。しかもあんな格好で…。
しかも母は、少しもたじろいてはいなかった。乳房を弾ませ、尻をクナクナと揺すりながらステージの中央に立ち、艶っぽく微笑みながら観客を見回している。まるで媚びを売っているようなその笑顔が異様だった。

そして、薄化粧をし、両目をキラキラと輝かせている母は、なぜか息を飲むほどに美しく艶やかだった。母のこんな表情を、ぼくは今まで見たことがない。
 さらに驚いたのは、母の持っている一輪車のサドルに、肉棒をかたどった太い筒が突き立っていたことである。サドルを跨ぐとしたら、母はその筒を体内いっぱいに飲み込まなければならない…。

母は一輪車を下に置き、サドルを跨ごうと片足を上げた。
太股が大きく開き、肉ひだが丸見えになった。
 ぬめりと口を広げた肉ひだの中心部に筒の先端をあてがい、母はそのまま尻を下ろしていった。色も形も見るからに本物そっくりに作られた筒が、母の肉穴にズブズブと沈み込んでいく。

 観客の目を釘付けにしながら、母は重量感のある尻をサドルに下ろしきり、ほーっ、と息を吐いた。そのまま、両足をペダルにかけて一輪車をこぎ始めると、テントの中は大きくどよめいた。

 母は、けっこううまく一輪車を操っていた。太い筒を下腹部いっぱいに呑み込んだまま、ステージの上をグルグル回っているのである。

 それでも、夕べの女の子達の演技に較べるとにわか仕込みの感はぬぐえず、バランスを取るために体が大きく揺れ動いている。尻がときおりサドルから持ち上がり、そのたびに筒をくわえ込んだ肉穴が垣間見えた。そんな母を見つめながら、ぼくは体が震えて仕方なかった。

 母がステージの上を一周し終わった頃、幕が開いてなぜかピエロが登場した。その後ろから、あのロドリゲスもついてきた。

 小人男ロドリゲスの姿は、何度見ても慣れない。手足が短くてブヨブヨ太った体は醜悪そのものだったし、唾液に濡れた分厚い唇は、大きなナメクジのようで気持ちが悪かった。

 ピエロはステージの中央に立って母を指さし、ロドリゲスに向かってジェスチャーで追いかけろと指図している。追いかけて、突き飛ばせ、という動作のあと、ピエロは両手で尻を抱える格好をし、腰をヘコヘコと動かして見せた。
観客は「おおーっ」と歓声を上げたが、ぼくの体はさらに激しく震え出した。

 卑屈な顔でオドオドしていたロドリゲスが、猛然と母に向かって走り出した。その目がギラギラ輝いている。

 母はロドリゲスに気づくとハッ、とした表情になり、あまりうまくない一輪車のペダルを必死にこぎ始めた。しかし、母の顔に嫌悪感は浮かんでいなかった。必死にこぎながらも、艶っぽい笑みがこぼれている。まるで早く追いついてみなさい、とロドリゲスを誘っているようだ。

 短い足で母を追うロドリゲスの姿は滑稽だったが、本人は必死なのだ。その必死さがまたも観客の歪んだ笑いを誘っている。

 一方、あまりうまくないながらも、母はタイミングよく何度も方向転換し、レオタードからこぼれ出た巨乳をたぷたぷと揺らしながら、ロドリゲスの突進をかわしている。
 奇妙な追いかけっこは、観客の喝采を浴びながらしばらくの間続いたが、やがてロドリゲスが全力で母に体当たりして終わった。

 母は一輪車ごと宙を舞うようにドスンとステージの上に落ちた。同時に体が一輪車から離れ、股間に突き刺さっていた筒がズボッと抜け落ちた。痛そうに顔をしかめた母を見て、ぼくは心臓が縮む思いがした。

 しかし、観客の目は開げられた母の股間にいっせいに注がれている。ぬめりと開いた肉ひだが、スポットライトを浴びて照り輝いていたのである。

ロドリゲスは、もう堪らないというように母に飛びついていった。
 醜くて大きな顔に短い手足、ブヨブヨとたるんだ胴体のロドリゲスが、まるで大きな芋虫のように見える。その醜悪な芋虫に、母がのしかかられてしまった。だが、母は優しくロドリゲスを抱き止め、愛おしそうに頭や顔を両手で撫でまわし始めたのである。

 ロドリゲスは幸せそうだった。ピエロにいじめられてばかりで、今まで誰かにこんなに優しくされたことはなかったのだろう。
 母はロドリゲスの目を見つめ、いいのよ、とでもいうように頷いた。ロドリゲスは気持ちの悪い唇をニッと歪めて体を起こし、母の股間の前に屈み込んだ。
母は大きく足を広げ、さあいらっしゃいと手招きしている。

(ああっ、や、やめて)
 ぼくは心の中で叫んでいた。しかし、ロドリゲスはためらうことなく短い腕を母の股間に伸ばしていった。

 ロドリゲスが肉ひだを左右に割り広げると、内部のいく層にもくびれた真っ赤な粘膜が露出した。ロドリゲスは指先を粘膜の中に差し込み、たぐり上げるように肉穴を広げ、そして、鍵穴を覗きこむように細めた目を近づけた。
母の内臓までが、ロドリゲスに覗き込まれているような気がした。

しかし母は、優しくロドリゲスを見守りながら、
「あ…ああん…」
と、熱い吐息を漏らしている。
母はいったいどうなってしまったのだろう、とぼくは思った。

 ロドリゲスが、粘膜の中心に人指し指を突き立てた。粘膜がひしゃげ、ズブッと指が埋没した。きつくすぼまった肉穴が、ロドリゲスの指をきゅうっ、と締めつけている。

「ああっ、あああっ…」
 母は熱い吐息を漏らし続けている。やがて指を抜いたロドリゲスは、母の肉ひだに涎のしたたるナメクジのような唇をあてがった。チューチューと吸ってから、今度は真っ赤な舌でペロペロと舐め始めた。

 こんな醜悪な小人男に舐められ、普通なら吐き気さえ催しそうなものなのに、母は逆にうっとりとした顔で、しかも愛おしそうにロドリゲスの頭を撫でいる。

 ロドリゲスの舌は異様に長くて、先のほうが爬虫類のようにとがっていた。その舌でロドリゲスは肉ひだをえぐるように舐め上げ、ときに肉穴に突き刺すようにのめり込ませた。そのたびに、母の白い太股はひくひくと反応を示すのだった。

満員の観客は、静まり返っていた。
誰もが身を乗り出し、息を飲んで見詰めている。

と、ロドリゲスは肉ひだから顔を離し、なぜか泣き出しそうな顔になって母を見上げた。
 どうしてあんな表情で母を見上げたのか、ぼくにはわからなかった。母は少しも嫌がっていないのだから、そのまま一気にのしかかってしまえばいいのだ。それなのに、なぜあらためて許しを乞うような目で母を見たのだろう。

 母はにっこりと笑い、母性愛のこもった優しい眼差しをロドリゲスに向けた。そして醜いわが子を哀れみ、愛おしむように、ロドリゲスの唇にキスをしたのだ。
ロドリゲスは一瞬身震いし、泣き笑いのような表情になって母を見上げた。
 そのとき、ぼくにはわかった。ロドリゲスは、母に何度でも優しく微笑んでほしかったのだ。

 きっと、その醜くさのために誰からも愛されたことも優しくされたこともなかっただろうロドリゲスは、母の愛情深い性格に気づいていたのだ。母ならば、こんな自分でも温かく包み込んでくれるのではないかと、切ない願いを込めて哀願したのに違いなかった。

 母は、ますます優しい目で見詰めながら、起き上がってロドリゲスの体を抱き締めた。そのあと、腕を伸ばしてロドリゲスの腰のものを外していった。

 おおーっ、と歓声が上がるほど太いものがロドリゲスの股間から現れた。母は(まあっ、立派よ)とでもいうように微笑みかけ、握りしめてシコシコと擦り始めた。
ロドリゲスが気持ち良さそうに目を閉じ、ヒクヒクと体を震わせている。

 母は肉棒を擦りながら再び仰向けになり、ロドリゲスを誘うように両足を大きく開いていった。
ロドリゲスが母に覆いかぶさった。

ライトを浴びた肉棒が、ぬめぬめと黒光りしながらズブズブと母の中に沈んでいく。
 根元まで押し込むと、ロドリゲスはいきなり激しく腰を突き上げ始めた。しかも、母と目を合わせ、顔をほころばせながら…。

そのときぼくは、込み上げてくる嫉妬の炎に体を焼かれてしまいそうだった。
 どうして母は、あんな吐き気を催すほど醜いロドリゲスを、愛情の籠もった顔で受け入れているのだろう、もう、ぼくのことを忘れてしまったのだろうか…

 観客達の熱い視線を浴びながら、母とロドリゲスはまるで恋人同士のように抱き合い、体を打ち付け合っている。しかも二人の顔は、とろけるような歓喜に満ちていた。

 やがて、ロドリゲスの腰の動きがさらに早くなり、母の喉からは「ああっ、ああっ」という悩ましく切羽詰まった喘ぎ声が噴き上がってきた。
 ぼくは嫉妬に狂い、胸を掻きむしりながら、昇り詰めていく二人を見続けるしかなかった。そしてついに、二人は絶頂を迎えたのだ。

 母も、ロドリゲスも、全身をブルブル震わせていた。ロドリゲスは獣のような呻き声を上げ、母はすすり泣くような喘ぎ声を噴き上げている。
ぼくには、母とロドリゲスが身も心も一つに溶け合ったように見えた。

母とロドリゲスが退場したあとも、ぼくは呆然とその場に屈み込んでいた。
胸の中が、嫉妬で焼け焦げてしまいそうだった。

 ステージでは最後の演目が始まっていた。三人の女性達による空中ブランコだ。見事に引き締まった身体がしなやかに空中で交差している。
 テントの中はあいかわらずサーカスの熱気に包まれていたが、さっきまでの淫らな雰囲気は跡形もなくなっている。

 あれはいったい、何だったのだろう? ぼくは夢でも見ていたのだろうか、と頭の中がますます混乱し、ぼくはもうどうしたらいいかわからなかった。
 と、背後に気配を感じてぼくは振り返った。すると、そこには賀来が立っていてじーっ、とぼくを見下ろしていた。賀来の冷ややかな目を見た瞬間、やはりあれは夢ではなかったのだとぼくは悟った。

「正一君、今日は子供は入れない日だったんだよ」
賀来が言った。
「…」
ぼくは返事をせず、ありったけの憎悪を込めて賀来を睨みつけた。
「お、お母さんに何をしたんだ!」
ぼくは叫び、つぎの瞬間賀来に飛びかかっていた。

 自分でも驚いたが、あれほど誰かが憎いと思ったのは生まれて初めてだった。とにかく、この手で賀来を殴ってやりたかった。
 しかし振り回した拳は賀来には当たらなかった。賀来はふわりと身をよじって拳をよけ、両手でぼくを捕まえた。そのままぼくは抱き上げられてしまった。

「は、離せ、ちきしょう!」
「静かに…正一君、ほかのお客様の迷惑になるだろう」
賀来の声にはうむを言わせぬような威圧感があって、ぼくはたじろいだ。

「正一君、どうして来てしまったんだ…見てしまった以上、君ももう家には帰れないぞ」
賀来はそう小声で言った。
「ど、どういう意味だよ!」
ぼくがまた叫ぶと、近くの観客が数人振り返った。賀来はさっとぼくの口を押さえた。

「これからわけを話してやるからとにかく静かにしたまえ、お客様の迷惑になる」
賀来は、ぼくを抱いたまま観客席から離れると、入場口からテントの外に出た。
 テントから少し離れたところにぼくを下ろし、賀来は境内に置かれている御影石の上に腰を下ろした。

「君も座りたまえ、ここなら大きな声を出しても迷惑になるまい。さあ、座りなさい」
ぼくは座る気にはならず、立ったまま賀来を睨みつけていた。
テントの中からは「おー」という歓声や拍手の音が聞こえてくる。
空には相変わらず満天の星が輝き、辺りの草むらを薄青く照らし出していた。

「では、このまま話そう…」
虫の音が響くなかで、賀来は話し始めた。
「正一君、君のお母さんは今日から賀来サーカス団の一員になったのだよ。そして、見てしまったからには君も一員になってもらう。君もお母さんも、我々と永遠の旅に出るのだ」
「永遠の…旅?」
 ぼくは一瞬怒りも忘れて賀来の顔を見詰めた。あまりにも突飛な話しなので冗談かと思ったのだ。しかし賀来の目は真剣だった。

「そうだ。聞くが、君は永遠の命というものを信じるかね?」
「し、信じないよ…人間はいつか必ず死ぬものだって、お父さんが言ってた…」
「ふむ、それは確かなことだ。人間は必ず死ぬ。しかし例外もある。この私と賀来サーカス団がそうだ。サーカスをやりながら、すでに七百年も世界中を旅しているんだ」
と、賀来はますますわけのわからないことを言い出した。

「そ、そんなの嘘に決まってる…」
「嘘ではない。話して聞かせよう、私達の秘密を…私はこの国の名前に合わせて賀来と名乗っているが、実はフランス人だ。七百年前も私はサーカスの団長として旅回りをしていたのだ。そして、その頃私はある人物と親交を持っていた。フランスのパリに住むその人物はサン・ジェルマン伯爵といって、社交界で有名な男だった。何しろ自分の歳が二千才だと自称していたのだ。彼はすべての言語を話せ、世界中で行ったことのない国はないと言っていた。君は知らないだろうが、ときにはバビロニア王朝の起源についてまで、実際に見てきたこととして話していたのだよ」

「う、嘘だよ…二千年も生きられるわけがないじゃないか」
「いいや、本当のことだ」
「…」

「私は、あなたはどうしてそんなに長く生きられるのだ、と伯爵に尋ねてみたことがある。すると伯爵は、あなたなら教えてもいいだろうと秘密を語ってくれた。何でも伯爵は、二千年前にインドに行き、そこで出会ったバラモン教の僧に秘薬の製法を教えてもらったのだそうだ。その秘薬とは不老不死の薬だ。それを飲んだ人間は時間から解放され、殺されたり自殺をしない限り永遠に生きることができるのだ。伯爵はどういう訳かよほど私のことを気に入ってくれていたらしく、秘密を打ち明けるだけでなく、実際にその秘薬の製法を教えてくれたのだ。そして、さまざまな薬草と化学物質を混ぜ合わせ、私も秘薬を作り出すことに成功した。その秘薬を飲んだ私と団員は、伯爵と同じように死なない体になった。以来、私達は死から解放され、気ままに世界中を旅して回っている。最初にこの国に来たのは百五十年ほど前のことだった。まだ侍が刀を腰にさして道を歩いていた頃のことだよ」

「…」
 ぼくには、賀来のいうことが信じられなかった。わけのわからないことを言って、母のことをはぐらかそうとしているのだと思った。

「そ、そんなことより、どうしてお母さんをさらったんだ…さらって、あ、あんなことを…」
「そんなことより…? そうか、君はまだ不老不死という言葉に魅力を感じないのだね。ふむっ、なるほど…」

賀来はぼくの顔を見ながら、独り言のように言った。
「うらやましい、私にも君のような時代があったが、もう覚えてはいない。忘れてしまった」
「…だから、お母さんをどうしてさらったんだ」

「五年ほど前に女の団員が一人やめてね…団員のなかには、不老不死であることに嫌気のさす者も時々出てくるんだ。その女はある村で若者と恋をしてな、この人と一緒になりたいとサーカスをやめていった。しかし、体は若いままでも、彼女も私と同じく七百年以上も生きている。相手の男はまだ二十年ほどしか生きておらんのだよ。うまくやっていけるはずがないではないか」

そこで賀来はふーっ、と溜息をついた。
「…しかもフランス人だ。排他的なこの国でやっていけるかどうか…彼女はいいとしても、生まれた子が混血児としていじめられるのは目に見えている。だが、あの女はそれでもいいと言った。好きな男と一緒ならどんなことでも我慢できる、燃え尽きて死にたいとな…夫と子供が年老いて死んだあと、きっとあの女は自ら命を絶つ覚悟をしているのだろう」

 不老不死を捨ててまで若い男と一緒になった団員の気持ちが、どうしても理解できない…一瞬、賀来はそんな表情をした。だがすぐにもとの表情にもどり、
「それ以来、私は新しい団員を捜していた。この国にはなかなか素質のある女はいなくてね。しかし、君のお母さんは団員としてふさわしかった。美しい顔立ちのくせに肉感的な体は、彼女以上に客を呼べるだろうと私は思った。だから君に招待券を渡し、お母さんとここへくるように言ったのだ。実はああいった出し物はサーカスを維持していくのに重要な資金源でね、だから団員になってもらうことにしたんだ」

「そんなの勝手すぎるよ、無理矢理にさらっておいて、あんなことまでさせて…明日になったら村中の噂になっちゃうじゃないか。もうこの村にいられないよ、お母さんやぼくたちはどうなってもいいのか!」
 ぼくは、とうとう我慢できなくなって叫んだ。思わず掴みかかりそうになったが、なぜかぼくの体は動かなかった。

「安心するがいい、観客の誰にもあれが君のお母さんとは気づかない。今気づかれたら騒ぎになって、すんなりとこの村を起てなくなるからね。だから観客には外人だと思うようにステージの上から暗示をかけておいた。君は途中でもぐり込んだから暗示にかからなかったんだ」
「あ、暗示…?」

「そう、暗示だ。観客の誰一人としてあれが君のお母さんだとは気づいていない」
「そ、そんなこと…」
「本当だ。私はそういう力を持っている」
「…」
 にわかには信じられなかったが、といって賀来はでたらめを言っているようにも思えなかった。

 ぼくは背中に冷たいものが走るのを感じた。賀来の話しが本当なら、途中からもぐり込まなければ、ぼくはあれが母だとは気づかず、そのまま永遠の別れになっていたかもしれないのだ。

「ひ、ひどい、黙ってお母さんをさらっていく気だったんだな」
ぼくは叫んだ。しかし賀来はそのことには答えずじーっ、とぼくを見つめながら言った。
「だが君もここへきた。おかげで君も永遠の命が手に入るんだ。ありがたいことだとは思わんかね」
「思わないよ!」
 そう叫んだとき、ぼくは体が凍り付くような思いに捕らわれた。もし賀来の話しが本当だとすれば、母はその秘薬をすでに飲まされているのだろうか…そのことにはっ、と気づいたのだ。

すると賀来は、ぼくの心を見透かしたようにニヤリと笑った。
「正一君、お母さんはもう不老不死の体になっているんだよ」
「!」
ぼくは、あやうく尻餅をつくところだった。

ぼくは星明かりに照らされながら、しばらくのあいだ口を開くことができなかった。ことの重大さに怒りさえも忘れてしまった。
「正一君、お母さんは自分から喜んで秘薬を飲んだのだよ。私達と一緒に行くことも自分の意志で決めたことなんだ」
長い間を置いてから、賀来は続けた。

「嘘だ…そんなこと嘘に決まってる。お母さんに、何かしたんだろう…」
ぼくは、やっとのことで言い返した。
「無理にそうし向けたのではない。私は、君のお母さんの心を開き、心の奥底にある願望を引き出してやった…ただ、それだけのことなのだ」
「願望…?」

「そう、願望だ。私は触れなくても相手の体や精神をコントロールすることができる。そういう力があるのだ。観客にはその力を使ってお母さんと気づかぬよう暗示をかけたのだ。そして私は、君のお母さんの心を解放してやった。君は私が、お母さんと虎を箱の中で入れ替えるマジックを見ていただろう。あのとき私は、言葉を発せずに、今日、一人でここに来るようにと暗示をかけておいたのだ。お母さんはやってきた。私は術をかけ、心の底に押し込めていた願望を引き出してやった…」

そこで賀来は、またニヤリと意味ありげに笑った。
「正一君、お母さんが心に秘めた願望とは、いったいどんなことだったと思うかね? お母さんは自分の願望に驚き、驚きながらも喜んでくれた。あらゆる呪縛から解放されたように清々しい気分だと言ってな。どうだ、知りたいだろう?」
賀来が、どこか勝ち誇ったような目でぼくを見つめていた。

ぼくはごくり、と唾を飲んだ。さっき見た光景が脳裏に蘇ったからだ。
ぼくはその先を聞きたくなかった。しかし賀来は憎らしいくらいはっきりと言った。
「君のお母さんは、飢えていたんだ。良い妻、良い母親を淡々とこなしながら、実は心の底に悶々としたものをいつも溜めていたんだよ。つまり男とやりたくて仕方がなかったんだ。きっと、君のお父さんは充分に満足を与えていなかったんだろう」

「う、嘘だ…」
「嘘ではない。これは本当のことだ。そこで私は、お母さんのそんな願望を押さえつけていた理性のタガを外してやった。するとどうだ、君も見ただろう、お母さんは、あんなに嬉しそうにロドリゲスと交わったじゃあないか」
「嘘だ、嘘だー」
ぼくは、泣きそうな声で叫んでいた。

 母がそんな嫌らしい願望を持っていたなんて信じたくなかった。しかし、歓喜に満ちた母の顔が、ぼくの脳裏でますます大写しになっていく。ぼくは、胸を掻きむしりたくなるような思いにとらわれた。

「正一君、嘘か本当か、直接お母さんに聞いてみるといい。どれ、最後の公演もそろそろ終わる時間が近づいてきた。君も一緒に来たまえ」
 賀来は御影石から立ち上がり、ぼくの手を取ってテントに戻り始めた。ぼくは引きずられるよう一緒に歩いて行くしかなかった。

 賀来はテントをぐるりと回った。入場口の反対側には虎の入った檻があり、サーカスのテントとは別に小さなテントがいくつか張ってあった。きっと団員達の宿舎なのだろう。

 ステージに直結して張られたテントに入って行くと、ひしめくように待機していた団員達が、いっせいに振り返った。
 空中ブランコの女性達に、一輪車の少女達。曲芸の筋骨たくましい青年達に、ピエロとロドリゲス。その他、見習い兼雑用と思われる少年少女達。異国の、不老不死のサーカスの団員が、ある者は無表情に、ある者は好意的な笑みを浮かべてぼくを見つめていた。

 そのなかには、母の姿もあった。母はすでに着替えていたが、身に纏っていたのは西洋のドレスだった。もともと艶やかで高貴な感じのするドレスだったが、母が身に着けると東洋的な雰囲気も加わって、アランビアンナイトに出てくるどこかの国のお后様のように見えた。

母が、ぼくに向かってにこにこと笑いかけている。
 ぼくは泣きそうになってしまった。もしかしたらもう会えないかもしれないと思っていた母とやっと会えた。そして、母とはまだ絆がつながっている。そのことが心の底から嬉しかったのだ。

「賀来様、ちょうど今、最後の演目が終わったところです」
曲芸の男が、うやうやしく賀来に告げた。
「ちょっと待っていなさい、お客様に挨拶をしてくるから」
 賀来がぼくの耳元でそう言ったとき、幕が開いて強烈なライトの光が差し込んできた。

拍手と歓声の渦巻くなかを、賀来を先頭に、母を含めた団員達が全員ステージに出て行った。

ステージにずらりと整列した団員を背にして、賀来は最後の口上を述べ始めた。
「おかげさまにて、賀来サーカス団の公演は本日をもって無事終了いたしました。厚く御礼申し上げます…私共は明日からまた村から村、町から町へと移動してまいります。もしかすれば再びおめにかかることもございましょう。そのときにはまた、懐かしく思い出して頂き、ぜひとも足をお運び下さい。それではお別れです。気をつけてお帰り下さいませ」

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